2022大賞受賞自治体の
取り組み紹介

ふるさと納税を通じて生まれたストーリーや地域で頑張る人を表彰する、ふるさとチョイスAWARD。
ふるさとチョイスは、アワード2022で大賞を受賞した取り組みの魅力をさらにご紹介すべく
実際に自治体を訪れ、地域の活動やそこで暮らす人たちの想いを伺いました。
今回は、チョイス事業者部門でさかいまちづくり公社の野口富太郎さんに発表いただき、
大賞を受賞した茨城県境町の取り組みをご紹介します。

「稼ぐ力を身につけた

地域商社を地方創生の切り札に

チョイス事業者部門 大賞 茨城県境町

利根川を擁する水と緑の豊かな田園都市

東京都心から50km圏内、関東平野のほぼ中央に位置する茨城県境町。東西に利根川が流れ、古くは江戸と奥州を結ぶ河川舟運の要衝として栄えた町です。茶栽培が盛んで、利根川流域の肥沃な土壌と猿島台地の地の利に育まれた「さしま茶」は日本を代表するブランド茶のひとつ。また、茨城県はさつま芋の生産量全国2位を誇り、境町で加工される「干し芋」はその品質の良さから近年人気が上昇、今や町を代表する特産品となっています。自然に恵まれた田園都市、境町。この町が今、全国の自治体や民間企業が続々と視察に訪れるほど注目を集めているのです。

01 お茶屋の5代目当主が 町再建のため道の駅駅長に

今から9年前、境町は財政破綻寸前でした。その状態から町を建て直すべく立ち上がったのが、現町長の橋本正裕さん。そして、「観光協会長、道の駅さかいの駅長として町の再建に力を貸してほしい」と橋本さんが声を掛けたのが、明治時代から続く製茶問屋・野口徳太郎商店の5代目当主、野口富太郎さんでした。これまでお茶一筋でやってきた野口さんは一瞬戸惑いつつ、今まで野口徳太郎商店がこの地域で140余年お世話になってきたことを考え、橋本町長の任期中に地域のために活動することは地域発展に繋がると思い快諾したそうです。

境町がまず取り組むべき課題は財政改善。町外からの収入を増やす施策が必要でした。野口さんは自治体の成功例を勉強していくなかで「ふるさと納税事業に注力すること」が再建の鍵になると確信。道の駅事業とふるさと納税事業のダブル展開は市場のリアルマーケティングにも繋がり、双方の売上が向上。急激に業績を伸ばしていくこととなります。

02 地元に雇用を生むべく 地域商社を設立

平成28年、道の駅駅長就任から3年目。野口さんは自治体との連携をより深めるため地域商社「さかいまちづくり公社」を設立しました。

地域商社とは、地域の資源をブランド化し、生産から加工まで一貫したプロデュースを行い、地域内外に流通販売していく組織のこと。これからの時代、地域の活性化を目指す上で必要不可欠な取り組みだと野口さんは考えています。

設立後は、地方創生交付金を活用して新規事業に着手しました。地元食材を楽しめるサンドイッチ専門店やレストランを道の駅内にオープンしたほか、文化施設や食品研究所、干し芋やうなぎの加工所などを続々と建設。ものづくり事業も拡大しています。そのいずれもが世界的建築デザイナー・隈研吾氏設計による建物ということも話題を呼び、業績もアップ。設立当初は3名だった従業員も、171名まで増加しました。

03 境町のビジネスモデルを 支えるふるさと納税

さかいまちづくり公社がプロデュースする特産品はふるさと納税でも人気が高く、多くのリピーターを得ています。町の財政が大幅に改善するきっかけとなったふるさと納税。一事業としてこれに真摯に取り組んだ結果、納税状況は著しく伸長し、令和3年度の寄付金は48億円を突破。市町村別のランキングでは5年連続関東1位、全国でも17位を獲得しました。

道の駅とふるさと納税、ものづくり事業を軸に、右肩上がりに財源を増やしてきた境町。この目覚ましい変化は、自治体との連携なくしては成し得ないものでした。納められた寄付金は先進的な英語教育や医療費補助などの様々な取り組みの財源になっているほか、地場産品の販路拡大や新たな産業の創出にも活用されています。そうすることで町に新たな雇用を生み、地域に資金を還元していく……そんな仕組みを自治体とともに作り上げてきたのです。このビジネスモデルは「境町モデル」と呼ばれ、財源改善の成功例として全国から年間200件以上もの視察が訪れるまでになりました。

04 境町モデルを横展開し 地域から日本を変えていく

視察に訪れた全国の自治体の人々と話しているうち、野口さんは危機感を抱くようになりました。境町がかつて抱えていた問題は、今も多くの自治体が直面している問題だという現状が浮き彫りになったのです。自分たちだけが成功しても仕方がない、8年間培ってきた経験やノウハウを今こそ全国に展開していかなければならない、そう考えた野口さんは「全国地域ビジネス協会」を立ち上げました。目指すは、一自治体一地域商社。境町の成功例を生かし、地域商社の立ち上げから運営までを担う即戦力、“地域ビジネスプランナー”を育成する。その信念のもと、現場研修や講義、ワークショップを精力的に開催しています。

「地域が稼ぐ力を持つことで、まちは活性化する。それを横へと繋げていくことで日本全体が強くなっていく。今は、地域から日本を変えていく時代なんです」と野口さん。地元に貢献したいと境町を見つめていたその眼差しは、今では広く、日本全体に向けられています。

地域事業者が語る「今まで」と「これから」

新しいビジネスモデルを
今後も生み出していきたい

さかいまちづくり公社 
代表取締役 野口富太郎

橋本町長に声を掛けられたとき、「自分はこれまで地域のために何かやってきたか」と自分に問いかけました。そして、これまでは家業に邁進していたけれど、そこで培ってきたものづくりの経験や流通販売に関する知見を今こそ地元のために生かす時だと考え、二つ返事で引き受けました。どうせやるなら徹底的にと、ありとあらゆる人脈やネットワークを駆使して取り組んできたことが結果に結びついているのは嬉しいですが、まだまだ挑戦したいことはたくさんあります。今は、境町をドローンビジネスの一大拠点にするために奔走中です。境町は自動運転バスの運行からも分かるように、地域住民の利便性にテクノロジーを生かす取り組みに積極的。これからも新しいビジネスモデルを生み出すことで町の活性化に貢献し、住んでいる人たちが誇りに思える町づくりに尽力したいと思います。

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